その穴の存在を 俺はつい最近まで忘れていた 初めてこの穴に気付いたのは このアパートに引っ越してから一ヶ月ぐらいたってからだった 無精な俺が引っ越しの荷物を ようやく押し入れの奥にすべてしまい終わったその日 その荷物をしまった先に 小さな穴が空いていることに気付いた 壁に空いたその直径一センチぐらいの穴は 隣部屋へと通じていた 大家にこの事を言おうと思ったが 俺が空けたことにされてはたまらなかったので その当時、隣部屋は空き部屋だったこともあって そのまま荷物を押し込んで 放置することにした その内、隣には男の住人が入ったが すっかりその穴のことは忘れていた しかし それから数ヶ月後の今日 隣の部屋がやたらとうるさい 何かが暴れているようなそんな物音が 壁越しに伝わってくる 文句の一つでも言ってやろうかと考えたが ここでふと あの穴の存在を思い出した 何をしているのか少し見てやれ そんな軽い気持ちで 俺はそっと 押し入れの奥の穴を のぞき込んだ・・・ ▼本編へ |